建築について 建築事件簿

建築事件簿−A診療所施工者選定の巻

 XX年11月27日、A診療所新築工事の競争見積り合わせの結果が出てきた。

その時点からの物語である。

見積り上がりの結果を受けて、建主のT常務理事と設計統括の私と担当のO君が出席して、業者決定の方向を検討した。

予算は消費税抜きで3億3400万。

見積り額はかなり高く出て予算を大幅に上回った

大丈夫とは言ってあるが建主は心配していた・・・。

修羅場を幾つも掻い潜っている 私から見れば、まあやれない数値ではないとタカをくくっているんだけど、設計担当者のO君から見れば心配である。

 建築工事11社、電気設備工事4社、機械設備工事4社、計19社の分離発注式による競争見積合わせである。

図面代(見積り図面は全て有償とした)だけで117万円を越えた。

しかも談合を阻止するために、現場図面説明会は変則開催とした。

建築工事と電気設備工事、機械設備工事の3つの工事種別ごとに出席社を分けた。

建築工事は、地元と準大手の2社ずつを呼んでの組み合わせ5回。

電気設備工事、機械設備工事の8社は全てを呼んで1回での、計6回の現場説明会とした。

 さて、出てきた数値は次の説明にて詳しく。

見積り額の比較

 建築工事で一番安いのがM組の2億5千万円、高いのが地元H建設の3億5500万。

ここで1億500万の開きが出た。

電気は一番安いのがK電の4800万、高いのがKNの5380万。

ここで580万の開き。

これが疑問?開きが少ない!

機械設備で一番安いがT社の1億800万、高いのがS設備の1億3700万。ここで2900万の開き。

従って一番安いところの建築・電気・設備の組み合わせの合計が4億600万となった。

7200万(約21%)オーバーと言うところである。

因みに一番高いところの合計は、5億4580万。

最低値の合計とは1億3980万の差である。

予定額に対して63%のオーバー。

しかし、こんなのはいつものことである。

もっと凄まじい差が出たこともあるのだから。

談合はあったのか?

 さて、談合はあったのか?というと、

 有ったと思う。

 先ず地元で一番低かったO建設。

ここが地元をまとめたという情報が入ってきていた。

しかも地元建設の中ではダントツに安い。

こことM組の差は4600万もある。

その次は6000万差の地元、

次が9200万差のNでそれ以下は地元の4社で番外とした。

建主は出来れば地元にしたいという、

では地元を呼んでそこと交渉しましょうとなった。

ただし、談合のまとめをしたと言われるO建設とはしたくないというので外す。

3番手の6000万差のS工務店を最初のネゴシェーション対象業者とした。

ネゴシェーションの順番

 先ず、ネゴシェーションの順番を決めましょう、と言うことで次のように決めた。

 当日は1社としかできない時間(もう夕方3時半過ぎ)だったので、地元なら呼べる。

電気からやりましょうということで、地元にしたいというので、電気設備工事で2番札のT電工を呼んだ。

ここは、「下請けは昨今きついので同じ工事費でのコストオンなら十分な工事が出来る」と建主に直に豪語して来たところ。

同じ工事費?という意味が分からないが、

今回は図らずも我々もコストオンを提案することになってしまったが、さてどう出るか。

最初の業者とネゴをする

夕方の4時半に呼んで減額提案をし、かつ

現在、提出された見積額は一番ではないこと(当然知っていると思われるが)、

予算とも相当開いていること、

しかし建主は地元とやりたいと願っていること、

設計監理者としては予算と合えば地元でも良いという方針だと伝えた。

回答は翌日12時までとした。

 その日は、それで終わりのつもり。

だけど、建主のT常務理事さんは地元で一番安いO建設を入れなければ地元が騒ぎ出すかも知れないから交渉すべきだという。

了承して急遽、O建設を翌朝一番で呼ぶことにした。

但し、断られるようにしたいという建主の意向を受けて、一切の値引き交渉をしないで一発回答をとるだけとした。

 その日は晩飯を一緒に食べながら(これで二度目か?)O常務から銀行を退職して医療法人の常務理事になったばかりの胸の内を聞いた。

例の医療法人をまとめる部会からの当事務所パッシングの矢面に立たされたのであるから、大変な思いで今日まで来たことなど、愚痴を聞きました。

どうして、組織というのは、意のままにならない(当社のこと)業者いじめをするのだろうかと率直に思う。

さて決戦の日?決済の日?一番目は?

XX年11月28日、

はやる心を抑えて武蔵は戦場へ・・・なんてね。

 一番目のO建設はどこまで頑張れるのかだけ聞き、減額交渉はしないと方針を決めておいた。

社長と営業部長が当然自社に決まるという顔で?来た。

「未だ開きがあるので現設計のままでどこまで頑張れるかで決まる」と説明した。

その場で2600万引の2億7000万と提示があった。

承って追って返事するとした。

 方針の規定通り「断る」事にした。

二番目は

機械設備のK工業。

ここも「未だ予算と開きがあるので現設計でどこまで頑張れるかで決まる」と説明した。

その場で500万値引いた1億1000万の回答。

機械設備で一番安いT社の1億800万より上である。

未だ予算と相当合わないので、当社から減額案を提示した。

値引きも含めて熟慮して再度今日中に回答することを伝えた。

 ここで、この次の回答がトップのT社と500万以上開いたらそこで終わりとする方針を決める。

三番目は

S工務店である。

建築で地元で2番目、全体で六番目。

ここも「未だ開きがあるので現設計でどこまで頑張れるかで決まると説明したが、その場で回答が出来ないと言う返事。

社長と営業部長が来ているのに?

呼ばれるとは思ってもみなかったというのがありありであった。

それで、六番目だけど地元にしたいという意向が建主にあるから頑張って欲しいと。

トップとどの位、差がついているかを明け透けに伝えながら、

減額案を提示し、且つ、今日中に返事をして欲しいと伝える。

期限は今日四時まで。

 ここで、何故S工務店は即答できなかったのかと言うことの検討をした。

このS工務店は、いつもはO建設の下請けが多いとのこと。

そこで読めた。

これは地元では話し合いが出来ていたのに、何故Sにお呼びが掛かったのか?となったので

相談の上で持ち帰ることがOとの間でも相談してあったに違いない。

これでは、O以上の数値は出ないだろう。

出ても6千万開いているという示唆はした以上、2億5000万で出てくれば御の字か?

という検討した上で答え待ちとした。

四番目に

T電工が常務と営業部長の二人で自信満々の態度で、回答を持ってきた。

4890万から減額案の440万を引いて4450万という回答であった。

これ以上は鼻血も出ないという。

現設計の仕様を変えてくれればといけしゃあしゃあという。

承って追って返事するとした。

 ここで何故減額案の440万相当しか下がらないのか疑問が出た。

予算とは相当の開きがあると言ったはずなのに。

しかも終始笑顔で自信満々の態度は何処から来ているのか?

あなたたちが幾らやってもこれ以上安い金額の回答はどこからも出てきませんよと言いたげ。

次のK電の答えを待つことにしたが、もし下がらなければ・・・?

五番目は

K電は若い営業担当チームの主任クラスが来た。

ここでやる気を疑った。

先ず減額提案無しで「未だ予算と開きがあるので現設計でどこまで頑張れるか」と聞いた。

その場でたった!200万値引いただけの4600万の回答。

これ以上は無理と判断し、減額のための設計変更案を示さずお引き取り願うこととした。

 やはり、これは電気も談合が出来ていたと思われる。

どうしても予算と合わなければ止むを得ないかと最終的に他が決まってからその様子を見て判断することとした。

六番目に

T社である。

営業課長が来た。

最初から「一番なのだが予算とは未だすり有っていないので減額の為の設計変更をする」と言う提案をし、その場で作業もして貰った。

その結果、1600万引いて9200万だという。

こちらは「建主の常務が出席していて端数はないのではないか」と200万値引きを迫り、

さらに「末広がりの数値が良いと思わないか」と8800万を迫る。

即答できないので後で返事をするとの回答で了承する。

 当社としては何処とやりたいという事はない、どこともつながりはない、と表明している。

が、当社の仙台事務所はT社と一番やっているので、気心は知っている。

それは馴れ合いをすると言うつもりではない。

建主の変更の多さをカバーするためにも、だからといって追加としないできちんと増減でチャラにする姿勢を知っているという業者であるということ。

現場が苦労させられるので病院の経験が多い事を望んでいるが、

しかしここでT社にしたいなどとはおくびにも出さない。

で、この時点でK工業とは2000万の差となったが、再回答が来てないので再回答を待つこととした。

七番目に本命とネゴ

建築本命のM組が来た。

最初から「一番ではあるが予算とは未だすり有っていないので減額の為の設計変更をする。

またさらに清水の舞台から飛び降りるなんて生半可なことではなく、舞台ごと大空を舞ってみたらどうか」

と言う提案をし、その場で積算作業もして貰った。

特に「ウィラーバスが1台4万5000円と破格の値段で見積もられているがこれはまあ良いよね?」

と1台200万はするモノを2.2%の値で見積もった事を承知させて、我々は建主共々30分中座する。

その結果、ウィラーバス3台(実はだぶって見積もっていたので6台見積り台数は有ったが、後の3台は認めてあげた)を入れて2500万引いて12500万だという。

こちらは「建主の決裁者の常務理事が来ていて端数はないのではないか」と500万値引きの12000万を迫る。

ここまで来るといくら私でも末広がりの8の提示までは出来ない。

よってこの場で、建築工事予算は1億1600万であるが、元々工事には入ってなかった什器備品のウィラーバスを予算に組み入れると1億2200万の予算となるので、200万下回ったことになる。

S工務店はもうじき来るが無理と判断し、ここでM組が建築工事の業者と決定とした。

 建主とすぐその場でどうしてもやらせたいという地元の小さな業者を呼んでJVの交渉をすることとした。

ここは旧診療所を破格の値で増築工事をした所だが元請けできるほど力量はないという。

了承して、そこをJVに組み入れるための私案を練る。

本命と再交渉

地元の小企業とのJV、

その他に、法人建設基金1500万の引き受け、

150名の法人組合員の拡大を条件に出したいという。

「大丈夫でしょう」と言って、直ぐM組と交渉に入る。

全て支店に戻ってからの回答と言うことでは有ったが、

前向きに取り組めるという確証を得て、

T常務がほっとしたのが非常に印象的。

八番目に

JV先の地元のSH建設を呼んだ。

M組8に対してSH2のJV提案を双方で詰めることと条件を示し、中座する。

30分後、この値段は地元では出来ない価格です。

でも何が出来るか見積書を貰って検討することにしましたと言う返事。

これで良し。次っ

九番目に

S工務店が回答を持参してきた。

先ほどの社長と部長である。

2奥5000万であった。

全く予想通り。

その場では丁重に受け取ったが規定方針どおり断ることとした。

やはり、O建設と相談したであろう事は想像できた。

その後、こちらから断り状が行くまでO建設からは音沙汰無しであった。

十番目に

K建設工業が9300万という回答を持ってきていた。

建主としてはどうしても機械設備は直ぐメンテナンスに来て貰える地元が良いというので

規定方針通りT社と500万の差は交渉の余地があると判断し交渉することとした。

で、建主のT常務には予算が8600万なんだからその金額で出来なければ断るという条件でよいかと確かめる。

「イヤ、T社と同じではどうか」と言う。

それでは同じ条件になっただけで金額に差がないのにどうやって決めたのかと言うことになる。

しかも一番は一貫してT社なんだから。ということで納得して貰った。

それではと電話でK建設工業常務と交渉。

かなりしつこく、「8600万は原設計の仕様通りか」と念が押される。

「当然仕様は些かも変えないのが条件。最低値は他にいるのだから駄目なら断って良い」と伝えたところ、

長い沈黙の後ようやっと「分かりました」と回答があった。

ここで「我が社の設計監理は厳しいので有名ですが、きっとお宅は答えてくれるモノと期待しております。」とだめ押し。

もうここまで来ると業者は開き直って「期待に応えられるよう頑張ります」という。

これで。機械設備工事業者も決まった。

電気設備工事は見積り不調

 なお、電気設備は見積不調としたのは、地元ではこの値を崩すなという暗黙の業界包囲網があるだろうから

今更、知らない業者をこれから再見積もりしても無理であろうと言う判断をした。

4日後の土曜日には地鎮祭を予定している。

建築、機械設備とも予算内に収まったのだから、ここは電気も予算内でなければ駄目でしょう。

と言うことで、期間4日間で答えを出すには、建築工事業者に決まったM組に電気工事も請け負わせるしかないという結論を出した。

「急遽追加して、電気設備もお宅にやらせてあげよう。請負金額が増えるのは喜ばしいことだよね。」と念を押しつつ、

「もう特命でお宅に決めるから予算守ってね」

「特命なんですか」とM組担当者は嬉しそう。

「そう、3200万予算、大丈夫?KでんとかK工とかYに出さなければ出来るからさ」。

「分かりました。」

「土曜日までには吉報を舞っているから」

 もちろん、当日中に吉報があったのは言うまでもないことでした。

結果

 建主のT常務も

「建設業界と言うところは恐ろしいところですね。尻の毛までむしられるのですね」というので、

「それは建主の予算がそういう予算だからそうせざるを得ないのです。

この診療所建設の予算はこのご時世にあってもかなりきついモノです。

それとも、もうこの辺まででよいと組合員に妥協したと言われても良いのですか」。

と、ここまで言うと脅しになるか?

 この工事金額は坪60万ぴったりである。

確かにもっと安い単価の診療所もあった。

しかし、建築概要でいう格が違う。

決して低品質では無い。

建築延床面積562坪、11mコンクリートパイル杭で全館ガスヒーポン式冷暖房設備。

エレベーターに階段2箇所、3階のディケアは大浴室と機械浴室を持ち、

ペアガラスのLOW-Eガラスで現場発泡ウレタン厚み50㎜の高断熱、高気密で

空調換気システム、ハンディナースコール付の建築物である。

重装備の有床診療所としてこの価格

皆さんはいかがお思いでしょうか?

 当社の設計担当者曰く、「もうイヤですよ、薄氷をバリバリ踏み割っていくのは・・・」

「うん、仕方ないね。じゃ、ここまでやらないようにしよう。

だけど怒られるだろうなあ。

T常務は法人を統括する本部のS氏からなんと言われるかなあ。

やっぱり当社は設計料も高いけど工事費も高くつくとか言われて、設計者を変えたらなんて言われるかも知れないし・・・・いいの~?」

ということで、有る診療所新築工事の設計監理の内の施工業者選定の巻でした。

 

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