設計者は誰のために設計するのか
これから設計を頼みたいと思っている人にお勧めの設計者選定の仕方を紹介します
病院やクリニックといった医療施設は、特殊な機能が多く、不特定多数の人が利用する公共的な施設です。
従って安全性と同時に働いている人にとっては機能が合理的であることが必須です。
こうした2つの側面からの要求を同時にどう解決することができるか、が設計の課題といえるでしょう。
設計者には、この難しい課題に応える豊富な経験と、複雑な医療機能の分析ができることが求められます。
そして多くの医療従事者の要求をまとめ、患者さんの立場に立って施設を考えることができる必要があります。
すなわち、その施設建設の基本的使命、課題を設計の中に間違いなく織り込むことができることです。
私は、これらのことを実現する要として、次のような理念を追求しています。
設計理念
①「建主主体の考えを貫き、その利益を守る」
②「住む人、使う人のための建築を追求する」
③「豊かな専門家の能力で、広範な要求に応える」
この理念を追求する設計活動の中で、様々な事件が起こりました。
それは又の機会にお話しするとして
設計者選定にあたって建主の皆様に聞いて戴きたいことがあります。
魑魅魍魎が棲むという建設業界
その中で、建主主体を貫くことは容易ではありません。
次の例をお話しします。
H医療法人の長期計画の策定にあたって
私たちを建設の専門家としてコンサルタントに選定していただいたH法人のN専務理事に、次のようなことを言われました。
「建設問題では、今日の複雑な状況のもとで、経営の原則を貫き、経営上の安全性を確保していく上では、民主的であり、法人・院所の側に立ってコンサルタントとして協力し、しかも口先だけではなく、決して裏切らず、建て主の立場に立つことを鮮明にしている建築士が必要である」
ということでした。
この「法人・院所の側に立って」ということは、「建主主体、住む人・使う人のための建築を追求している」私たちの理念と合致するものでした。
建築設計の目的とは、真の要求をつかみ、それを建築に実現することです。
そのためには設計者として、建築家独善に走らず、真の要求と表面的な要求の断絶をつなぎ、そして地域社会に密着し、住む人、使う人の立場に立った設計技術の発展を目指すことが求められています。
神戸の震災では、命や安全を守ることが問われました。
私の会社では、当時から医療施設の構造的安全性には格別配慮し、安全率を高めた設計をしていました。
震災の度に思うのは、経済性やデザイン性を優先するという建築家エゴが働いていないかということです。
本当に住む人、使う人の生活を支える施設にするために、専門家として先導する役割があり、支えきる役割を求められています。
主体は建主にあり。真の建主の立場に立つこと、住む、使う人の総意を結集する役割と、建主が決断する際の専門家としての役割が設計者には求められているのです。