医院・病院を新築・増改築・改修しようとしている方に役立つ建物づくりの連載−37
利用者に喜ばれる医院・病院づくり 第2章 豊かな医療環境を求めて
1.21世紀をのぞむ療養環境
(1)21世紀の療養環境
1990年代、病院の計画は、
「21世紀を展望してどのように計画していくべきか」
「増床なき新築、増改築計画はどうあるべきか」
が課題になっていました。
実際に21世紀を迎えた今、病院はどこまで到達したのでしょうか。
(1)療養環境が大きく変化してきました。
ここでは病室及び水廻りを除いた病棟全般の2000年までと最近の傾向を見てみます。
新築、増改築を問わず、病棟の面積が大きくなっています。
その理由は、療養環境の整備、患者さんのプライバシーの確保が、設計を進める上での第1課題となってきたからです。
診療報酬の改定、介護保険制度の導入、病院機能分化など医療制度改変の動きを反映した結果でもあります。
又、多床室の割合が少なくなり、個室割合が大幅に増えたこともあります。
具体的には、個室の数の確保、多床室でも4床まで、
ディルームや食堂・ラウンジの確保等の療養環境の整備が求められています。
限られた面積条件、経済的条件の中で、必要ベット数の確保が第一の課題であった2000年までに比べると、
病院の設計条件は21世紀に入って大きく変化しました。
(2)多床室から4床室へ
多床室が6床室を基本として計画していた頃の病棟面積は、1ベッドあたり15㎡未満が大半でした。
90年代になってからは1ベッドあたり20㎡を超えるものも出てきました。
中央設計で設計した90年代に完成した病院の例では、表のようになっています。
病院名(所在地) | A病院(青森県) | B病院(北海道) | C病院(北海道) | D病院(福島県) | E病院(埼玉県) | F病院(北海道) | G病院(愛知県) |
工事の種類 | 新築工事 | 増改築工事 | 改築工事 | 増改築工事 | 増改築工事 | 増改築工事 | 増改築工事 |
工事完成年 | 1994年 | 1995年 | 1995年 | 1996年 | 1997年 | 1997年 | 1999年 |
ベッド数(床) | 223 | 456 | 80 | 196 | 345 | 158 | 182 |
1床あたり延床面積(㎡/床) | 48.0 | 48.5 | 68.2 | 51.1 | 54.3 | 70.7 | 45.0 |
1床あたり病棟面積(㎡/床) | 19.2 | 17.8 | 18.9 | 19.3 | 19.2 | 21.5 | 22.0 |
病室構成(個室) | 34 | 28 | 12 | 26 | 21 | 11 | 21 |
病室構成(2床室) | 24 | 2 | 18 | 17 | 6 | 18 | |
病室構成(3床室) | 1 | 16 | 3 | 1 | 1 | 3 | |
病室構成(4床室) | 46 | 38 | 30 | 59 | 31 | 29 | |
病室構成(5床室) | 1 | 1 | 1 | 1 | |||
病室構成(6床室) | 36 | 5 | |||||
病室構成(集中重症管理室) | |||||||
病室構成(2床室) | 2 | ||||||
病室構成(4床室) | 1 | 4 | 2 | ||||
個室率 | 15.24% | 6.14% | 15.00% | 13.26% | 6.08% | 6.96% | 11.53% |
表にあげた病院は、多床室が6床室ではなく4床室が基本となっています。
90年代に入ると多床室は最大で4床というのが基本になってきています。
4床室では、すべてのベッドが左右どちらかに壁を持ち、落ち着いたベッド廻りと良さが言われました。
カーテンだけで仕切られる6床の中央のベッドに比べ、プライバシーの確保は前進しています。
また、個室の比率が高まっており、最近の例では別表(現在作成中)のようになります。
D病院、E病院、F病院では、個室のほかに重症者の集中した管理室を持ち、
個室率は低くても重症者への対応を出来るようにしています。
また、C病院、E病院では、個室の1部屋をMRSA感染者用として、風呂、トイレ付きの個室としています。
このように民間病院でも,感染者の病室を検討し始めたのも90年代の特徴です
(3)くつろげるデイルーム
病室の構成の変化と同時に、その他のスペースにも質的な変化が出てきています。
1つは療養環境向上の追求です。病棟に病室以外に過ごせる場所を確保すること、
寝食を分離し気持ちよく食事できる場所を作るなど、ディルームや食堂の確保に代表されるものです。
A病院では、広めの電話をつくりました。各ベッド(床頭台)にテレビを設置していますので、
今までのテレビを見るディルームから、くつろぐディルームへ使用方法が変わり、落ち着いた雰囲気を作っています。
C病院では、ディールームの一角に入院患者さん用の食堂を確保しました。
病室意外に患者さんが気軽に利用できるスペースがあることで、離床が促されると考えられています。
(4)プライバシーと療養環境
もう一つの変化は、患者さんのプライバシーの確保、患者さんの知る権利の保障との関係で必要な部屋を確保することです。
F病院では、病棟診察室、病棟処置室、カンファレンス室、ムンテラ室、療養指導室をそれぞれ独立して取りました。
増改築以前は、ナースステーションで行っていたことです。
看護業務をこなすだけでも厳しいスペースの中で、患者さんへの説明、処置、診察が行われており、プライバシーを守るには不十分な広さでした。
計画段階で前述の要素を全て取り入れたところ、病棟面積が1床あたり25㎡になってしまいました。
限られた延床面積の条件から、療養環境の向上も必要ですが、医療上、患者さんとの関係で必要な施設を最優先に取ることを合意し、
その結果、G病院での病棟面積は1床あたり22.0㎡となりました。
【注】ムンテラ室:患者さんや家族への病状の説明の部屋。プライバシーが尊重される。
(5)家族への配慮
次に患者さんの家族との関係です。
家族や付き添いの人の仮眠できる部屋を確保した例があります。
ディルームとつながった和室を設けて、患者さんがくつろいだり、付き添いの家族が仮眠をとれるようにしています。
診療所や他の病院との医療連携が進んでいく中で、地方からの患者さんを受け入れていく傾向があり、
特に遠方から来ている患者さんの家族に喜ばれています。
(6)ナース(スタッフ)ステーションのあり方
【ちょっと小話:以前、男性は「看護士」、女性は「看護婦」と呼んでいましたが、2001年に「保健婦助産婦看護婦法」が「保健師助産師看護師法」という名称に変わったことにより、2002年3月より男女共に「看護師」と統一されることとなりました。背景には男女雇用機会均等法からの流れの、職業における男女平等という考え方があったようです。英語圏やカナダCBCの規程などではナースという呼び方で看護師を表現する事で決着しています。それまでは男性のナースと呼んでいたのを男性を無くしたそうです。日本では何故かナースという呼び方が使われなくなり看護師さんに、そしてナースステーションはスタッフステーションとなりました。間違いでは無いのですが馴染みの問題は年月が解決するのでしょうか。】
閑話休題
十分な広さを取りたいとの要望は、今までと変わりません。
現状を調べて、結構広いナースステーションだなぁと感じても、スタッフからは狭いと言われます。
それはナースステーションで行われている8つの業務(処置・準備・保管・討議・記録・観察・休憩・案内)が、複雑で動きが激しいからです。
複雑な8つの業務を支障なく行うには、最低でも1病棟あたり50㎡の広さ(厚生省の看護婦勤務環境改善整備の基準面積)と判断しています。
これは今もこれ以上の整備基準は出されていない模様です。(2020年段階で)
最近は機能分化させることが進んでいます。
一方で看護業務の場をできるだけベッドに近づけようとする考え方もあります。
ナースステーションで行う機能分化された例では、A病院で休憩室をお願いしました。
F病院ではカンファレンスルーム、メンテナンスを分けました。
C病院では処置室、カンファレンスルームを別に設けました。
表に挙げた病院のナースステーションの面積は、1病棟あたりA病院で68.3㎡、F病院で66.3㎡、C病院では52.4㎡となっています。
位置は、病棟内の見通しが効く場所であると同時に、外部に面した気持ちの良い場所にやりたいとの基本的な要望も相変わらず出てきます。
見通せる事は病棟計画の前提条件として堅持していますが、そこで働くスタッフの労働環境の追求も合わせて考慮すべき課題と考えています。
より良い看護をするには、労働環境がより良く整備されていることも必要であると思います。
ナースステーションが窓に直接面していなくても、休憩室は外が見える場所に位置させることが必須の条件では無いでしょうか。
自治体によっては行政指導でナースステーションは外部に面する窓があることが求められる所もあります。
オープンカウンターの是非がよく論議されます。
患者さんがよりつきやすいオープンカウンターにするか、プライバシーを守る独立した部屋にするかです。
申し送り、看護の検討、病状の検討などナースステーションの中での会話は、プライバシーに関わることが数多くあります。
患者さんのプライバシーを守るためとナースステーションの煩雑な状態を隠したいことから、建築的には独立した部屋を予防されます。
オープン形式、部屋形式いずれを選択するにしても、看護業務内容の変化に対応できるものとする必要があり、病院によって選択は違ってきます。
(7)スタッフトイレ
職員に関わることで、いつも問題になるのは、職員トイレの位置についてです。
職員からの意見が分かれることがあります。
ナースステーションの中にあるべきだと言う意見とナースステーションの外にある方が良いと言う2つです。
いずれも患者さんの目に触れる位置は避けたいと言う事は共通しています。
ナースステーションの外に設ける(主に汚物処理室)ことの意味は、音の問題と気兼ねなく利用したいと言うことです。
計画の段階ではどちらの選択も可能なことです。
長所、短所を検討していただいて決めています。
また最近では、病棟に男性看護師が配置されてきて、男女分けされた職員トイレが必然となってきました。
職員の喫煙室は今やすでに時代遅れとなり、院内完全禁煙で、課題にはなりません。
休憩室の一角に電話ボックス程度の喫煙室を設けた例が昔はありました。