医院・病院を新築・増改築・改修しようとしている方に役立つ建物づくりの連載−36
利用者に喜ばれる医院・病院づくり 第1章 納得しながら進める医院・病院づくり
3.納得できる設計者の選定とは
(8)価格によらない設計者選定方式
1996年8月22日付「建設通信新聞」に紹介された国際建築家連合(UIA)の提案
「価格によらない設計者選定方式「QBS(Qualification Based Selection)」
に多くの共感を憶えました。
1996年7月の国際建築家連合の総会での会長報告です。
「依頼者は、プロジェクトを計画するできるだけ早い段階から設計にかかってもらうべきである」
として、面接による選定方式のプロセスを述べています。
事業内容を示し、その事業に最もふさわしい設計者を選ぶ方法として、
審査や面接を行う順序と考え方です。
適正な選定のできる能力を持った委員で選定委員会を設け、
事前に、設計者から設計事務所の経歴を通「資格申請書を」を受け取ります。
面接にあたっての事前の設問は、先に記した10項目に類似しています。
「技術的提案は、プロジェクトが明確に規定される場合のみ、そして、そのプロジェクトの重要性が、設計事務所及び依頼者に対して、金と時間をかけてもも良いと考えられる場合にのみ、求められるべきである」
「依頼者は、面接時に、ひとつの実際の設計案を求めるべきではない。」
「適切な回答となる設計と言うのは、選定段階で可能であるよりも極めて多くの依頼者と設計者との間の相互作用を必要とするものである。」
依頼者か設計者かのどちらかによって予断を持って提出されたとしても、それは、依頼者の真のニーズのために答えるものではない」
「それらの予算を持ったアイデアを、そのプロジェクトに適応させるための変更に費やされる時間と労力は膨大になり」
「最も良い回答となる設計案を求める上での妨げとなる」
「報酬と言うものは、実際の業務範囲についての包括的で相互の理解が存在して初めて、最後に選定された事務所との詳細な討議の中で、最もよくネゴシエートされるものである」
「選定委員会は多数決によるよりはむしろコンセンサスによって、ランク付けと選定を行えるよう、時間を取るべき」
「できれば、委員会がすべての事務所を評価するのに十分な時間を持った上で、その決定が面接と同一日になされるべき」
としています。
「面接点数やシステムに対する評価基準は、資格申請書を求めるときに、付録として全事務所に送付されるべき」
としている。
面接の際のプレゼンテーションの適切な時間として「45分面接が、構成、適切、かつ有益である」
とも述べています。
面接でランク付けして、そのリストは、事務所への礼儀として情報提供することが慣例となっているようです。
「1番にランクされた事務所と、プロジェクトの内容、要求される業務及び契約方式を協議して」
「詳細な業務範囲について意見がまとまれば、設計者は報酬案を作成して提示することができる。」
「その点が、依頼者の予算以上の場合は、両者協議して、業務範囲を修正する」
「そのような協同関係が、質の高いプロジェクトの可能性を高める」
といい、
「もし、業務範囲及び報酬について協約に達しない場合には、依頼者は第二ランクの設計者との距離を始めるべき」
としています。
「こうしたプロセスが、依頼者と設計者の間に良好なコミュニケーションと理解を育て、
最もふさわしい設計者が適正な報酬価格で選定されると言う点で依頼者を安心させる」
と述べています。
1999年、日本建築家協会(JA)がこの国際建築家連合の方式「QBS」を推奨することを決めました
「質評価方式」として具体的な提言を行いました。
これから一緒に歩む専門家の相棒を選ぶのは、
患者さんが医師を選ぶときに感じる不安といくらか共通するところでしょう。
インフォームド・コンセントが言われ、説明と納得のコミュニケーションが大事にされるように、
設計者選定にも適切な選定方法が望まれます。
又、日本建築学会など七会が2003年にまとめた
『公共建築の設計者選定方法の改善についての提言』
が参考になります。
大阪府建築士会では、[建築情報センター委員会 第85回委員会のまとめ]
の中で、QBS(Qualifications Based Selection)について次のようにまとめています。
「公共建築の設計者を選定する際、実績、経験、能力、人柄等を評価して最適な人を選ぶ「資質評価方式」をいう。
設計業務は高度で専門的な技術を要し、最も優れた「人物」を選ぶ事が納税者の利益につながるとする考えに基く。
簡単に言うと、設計者と設計料を同時に決めるのが競争入札、
実績と提案書を審査して設計者を決め、後から設計料を決めるのがプロポザ-ル方式、
提案書を求めず、まず設計者を決め発注者と交渉しながら設計内容や設計料を決めるのがQBS方式となる。
価格競争の場合、能力の低い者が低価格で落札すると品質が低下する。
激しい競争になると高い能力者も価格を下げざるを得ず、サ-ビス量が不足する。
従って高品質を確保するには「能力の高い人物に的確な価格」で依頼する必要があるのである。
この「QBS」のプロセスは対象プロジェクトに対し、
業務の取組み体制、担当者の実績、経験や代表作品を審査し最適格者を決定する。
その際、具体的な設計案は求めないので、設計競技方式のように設計案に拘束される事はない。
発注者と設計者は設計内容や業務内容・範囲、期間等を協議、確認し報酬について交渉する。
好い事ずくめの様だが、実施にあたり発注者には誰がどのような評価方法で選ぶのか、
又公平で透明性の高い評価の仕方が前提で、
そのプロセスをディスクロ-ズできるものであることが求められる。
公共建築設計懇談会QBSの報告書公表
公共建築設計懇談会(国交省、東京都、神奈川県とJIA、、日事連、士会連合会の 設 計3団体が構成する懇談会)では、
一昨年のUIA北京大会でQBS(資質評価方式)が 世 界共通の望ましい設計者選定方式として採択されたこと等を踏まえて、
勉強会を設けて検討してきたが、4月16日に本委員会を開いてその報告を聞き、了承するとと も に報告書を公表した。
現在の会計法、自治法の下ではQBSを完全な形で実施するこ と は困難との認識を前提にしながらも、
QBS方式の実施方法の詳細や、実施上の問題 点 等を突っ込んで検討している。
以下に「QBS勉強会報告書」の全文の中から一部を紹介する。
1 検討の背景・目的
1999年に北京で国際建築家連合(UIA)大会が開催され、「建築実務におけるプロフェッショナリズムの国際推奨基準に関するUIA協定」が採択された。
この協定において、設計者選定の方法として「特命方式」、「設計競技式」とともにQBS方式が推奨された。
公共建築設計懇談会新設計プロポーザル検討部会においても、この協定で推奨されたQBSについて情報交換が行われた。
この設計者選定方式については、米国における連邦政府のほとんどの発注がこの方式で行われており、
州政府や公共団体の多くもこの方式を採用していること、
英国においても最近公共建築の設計者選定に採用されるケースが多く、民間にも急速に普及しつつあるとの情報が受託者側から報告された。
また、公認会計士のサービスでは国際的職能団体による推奨基準がWTOの協定に採用された例もあり、
受託者側から今後QBSがWTOに採用される可能性も高いとの指摘もあった。
これらの状況をふまえ、1999年7月に開かれた公共建築設計懇談会において、QBSについて部会を設け検討を行うこととした。
ただし、QBSについての概要を検討した結果、会計法との整合性の問題、
政府の「公共事業の入札・契約手続きの改善に関する行動計画」との整合性の問題が予想され、
この方式の採用にはこれらの法律の改正等が前提となることから、
QBSの導入推進を前提とせず、将来対応が必要となる場合に備え、
あらかじめQBSの実施方法の詳細の確認や問題点等の検討を行う勉強会を開催することとした。
公共建築設計懇談会QBS勉強会委員構成(肩書きのみで、名前は伏せています)
国土交通省大臣官房官庁営繕部/建築技術調整官〇〇、〃建築課企画専門官〇〇、〃建築課課長補佐〇〇、住宅局高齢者・障害者対策官〇〇
東京都財務局営繕部技術管理課長〇〇、〃技術管理課建築技術担当係長〇〇、神奈川県総務部技監〇〇、〃建築工事課長〇〇、
(社)日本建築士事務所協会連合会(社)東京都建築士事務所協会理事〇〇、〃専務理事〇〇、(社)日本建築士会連合会教育・事業委員会員〇〇、
〃専務理事〇〇、常務理事〇〇、(社)日本建築家協会建設産業基本問題委員会委員〇〇、〃産業委員会WG主査〇〇、〃専務理事〇〇、〃事務局主任〇〇
(以下略)
そうそうたるメンバーが集まって勉強会が開かれた模様ですが、その実行にまでは行かなかったようです。
この項で、『第1章 納得しながら進める病院づくり』は終わります。
次回からは、『第2章 豊かな医療環境を求めて』が、始まります。