医院・病院を新築・増改築・改修しようとしている方に役立つ建物づくりの連載−13
利用者に喜ばれる医院・病院づくり 第1章 納得しながら進める医院・病院づくり
2.施設づくりの流れと設計者の役割-1
(1) 誰のために設計するのか
これは、1.参加型の共同設計で進めたいの舞台であるS病院を抱えるH法人の長期計画の策定にあたって、
私たちを建設の専門家としてコンサルタントに選定していただいた時に、法人のN専務理事から言われた言葉です。
「建設問題では、今日の複雑な状況のもとで、経営の原則を貫き、経営上の安全性を確保していく上では、民主的であり、法人・院所の側に立ってコンサルタントとして協力し、しかも口先だけではなく、決して裏切らず、建主の立場に立つことを鮮明にしている建築士が必要である」
と言うことでした。
この「法人・院所の側に立って」と言う事は、「建主主体、住む人・使う人のための建築を追求している」私たちの理念と合致するものでした。
医療施設は、建物としては特殊な機能が多く、しかも不特定多数の人が利用する公共的な施設です。
したがって働いている人にとっては合理的であることが必須です。
こうした
2つの側面からの要求を同時に解決すること
が設計の課題と言えるでしょう。
この難しい課題に応えるには、設計者には経験が豊富で、病院の複雑な医療機能の分析ができることが求められます。
そして多くの医療人の要求をまとめ、患者さんの立場に立って施設を考えることができる必要があります。
すなわち、そのことによって設計者はその施設建設の基本的使命、課題を設計の中に間違いなく織り込むことができるからです。
私どもの事務所では、これらのことを実現する要として、次のような理念を追求しています。
設計目的・理念
①「建主主体の考えを貫き、その利益を守る」
②「住む人、使う人のための建築を追求する」
③「集団的、組織的設計事務所の利点を生かす」
④「豊かな専門家の能力で、広範な要求に応える」
⑤「適正な報酬を得るために努力する」
こうした目的・理念も、一朝一夕で出来たものではありません。
特に、「建主」と言うのか、「建築主」と言うのか、「施主」と言うのかが先ず最初の議論になりました。
「建主」は、建築する主体者は誰か、
民主政治というものが国民主体と言っているのと同じで
「建主」こそが、建築行為の主体とするに相応しいネーミングでは無いかと言うことで、「建主」になったのでした。
そして、その建主が建築する行為の主体者であり、設計者も施工者も、その主体ではない
これは、建てる行為は、お金は建主が出すが、デザインや工事金額や工事内容は口出しできないといっているような事に対する
アンチテーゼ
でした。
即ち、当時の一部の建設会社の住民無視の開発行為や日照権などの地域の秩序を乱す元凶として攻撃される存在だった物を
住む人や使う人のための建築を目指すんだという創立時の合い言葉のようなものでした。
こうして、1972年設立後、10年を経た1982年に目的・理念五箇条が、全社員の出席のもと、
討論を重ね、社員総会で、決議して決めたのでした。